第1254回生物科学セミナー

免疫応答時における臓器間対話 〜個体を対象としたシステム生物学的アプローチ〜

角木 基彦 博士(Massachusetts General Hospital / Broad Institute / Harvard Medical School)

2019年03月06日(水)    16:30-18:00  理学部3号館 326号室   

ヒトをはじめとした多細胞生物は、外部環境の変化に対して適切に応答することで生体の恒常性を維持している。細胞各々が外部刺激に応答し、臓器レベルで統合したメッセージを組み立て、さらに臓器間対話を行うことで、個体全体として調和のとれた統合を図るべく恒常性を維持している。外部環境の変化における個体としての恒常性維持には、外部と接触する皮膚や呼吸器、消化器と身体内部の臓器間の相互連絡が必須であり、分泌性分子や遊走性細胞を介した臓器間の情報伝達メカニズムが存在していると考えられるが、多くの場合その実体は明らかになっていない。
我々は、マウスにおけるワクチンおよびウイルス感染応答をモデルとして、個々の臓器がどのように応答し、かつ、相互にコミュニケーションを行うのか、またそれはどのようなシグナルを介しているのか、について網羅的かつ不偏的に解析する手法を開発し、免疫応答時における臓器間対話機構の解明を試みた。その結果、分子レベルおよび細胞レベルの新規臓器間対話を同定し、その感染防御における役割を明らかにした(文献1、2)。本セミナーでは、上記モデルを用いた「個体のシステム生物学」研究、および遺伝子発現解析では同定不能な小分子性情報伝達物質を対象とした解析手法の発展についても触れたい。

参考文献
1. Kadoki M, Patil A, Thaiss CC, Brooks DJ, Pandey S, Deep D, Alvarez D, von Andrian UH, Wagers AJ, Nakai K, Mikkelsen TS, Soumillon M, and Chevrier N. Organism-level analysis of vaccination reveals networks of protection across tissues. Cell 171, 398-413.e21 (2017)
2. 角木基彦, and Nicolas Chevrier. ワクチン応答時における臓器間対話-個体のシステム生物学から見えてきたもの-. 臨床免疫・アレルギー科 70, 112-119 (2018)