第1248回生物科学セミナー

日本人における2型糖尿病の大規模全ゲノム関連解析

堀越 桃子 チームリーダー(理化学研究所生命医科学研究センター)

2019年01月16日(水)    17:00-18:30  理学部3号館 412号室   

アレイタイピングに基づいたゲノムワイド関連解析(GWAS)は、過去10年ほどの間、2型糖尿病のような多因子疾患の遺伝リスクを同定するのに最も効果的な手法として重用されてきた。GWASは特定の生物学的仮説に基づかない統計学的アプローチを取っており、またゲノム上を網羅的に探索できるため、これまで疾患との関連が知られていなかった遺伝子領域を同定するのに非常に有効である。実際、2006年に初めて2型糖尿病のGWASが欧米から発表されて以来、様々な人種で2型糖尿病GWASが行われており、これまで累計150ヶ所以上の2型糖尿病感受性領域が同定されている。最近でも新規の疾患感受性領域が欧米人から13ヶ所(Scott RA et al, Diabetes2017)、東アジア人を含む多人種集団を用いた解析から16ヶ所(Zhao et al, Nat Genet2017)報告されている。
しかし、GWASで同定された2型糖尿病感受性領域から糖尿病の発症メカニズムを説明できるような疾患原因遺伝子や原因となる変異を同定することは依然として困難である。人種固有の変異をカバーするようなタイピング用アレイのデザイン、適切なレフェランス用パネルの使用、サンプルサイズの拡大などを取り入れることで、オッズ比の高い低頻度アリルやより臨床応用に適した発症リスク予測変異の同定につなげることができる。欧米白人では約45万人におけるcoding領域を対象とした2型糖尿病の関連解析や、3万人以上の欧米人ハプロタイプを基にしたレフェレンスパネルを使用した90万人における2型糖尿病の関連解析が進んでいる。
我々は、19万人の日本人における2型糖尿病の全ゲノム関連解析により、28の新規疾患感受性領域を同定した。新規領域には欧米人には存在しない変異によって代表される領域も複数あり、単一人種における大規模GWASの有効性も示唆された。欧米からの知見と合わせて、2型糖尿病の大規模全ゲノム関連解析について概説する。