人類学演習Ⅱ/人類学セミナー2

脳への血液供給システムの系統発生と、頭蓋底神経血管孔との関連性について

澤野 啓一 先生(神奈川歯科大学・災害医療歯科学講座・法歯学)

2018年11月16日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 201号室   

人類進化に際して、脳容積の拡大は決定的に重要な役割を果たした。ただ、新生代に於ける哺乳類の進化に際して、ヒトの祖先だけが脳容積が拡大したのでは無い。ウマやイノシシの祖先たちも、実は脳容積が拡大している。これらの動物たちも、顎や歯の進化だけでは生存競争に勝てなかったのであろう。ただしHomo spiens sapiensの誕生と、その前段階の進化に於ける脳容積の拡大は、他の動物群の場合とは決定的に異なっていた。脳は体の大きさに対して、相対的にあまりにも大きい存在と成ってしまったのである。大きな臓器、活動が活発な臓器は、当然ながら、多くの血流を必要とする。哺乳類では、脳は頑丈な頭蓋に囲まれているから、頭蓋の内外の交通路は頭蓋底神経血管孔(Canales et foramina)に限定されている。血管内に於ける血液の流れは、Poiseuille以来、多くの研究者に拠って追及されて来たが、弾力性と分岐が多数有る管の中での拍動流の解明は非常に難しい。頭部の血液供給の場合には、途中の頚部が細く成っていることと、脳を頭蓋が取り囲んでいることとにより、腹部の場合とは大きく異る空間的な制約が存在する。そうした基本的な制約が存在する上に、ヒトの場合には、短い時間の中で脳が急速に拡大したことによる制約が加わっている。脳への血液供給路は、心臓から頭蓋底に達するまでの経路、頭蓋底の貫通方式、頭蓋内での血液供給方式の、三者に大別して検討することが可能である。Canalis caroticusやQuadrangulus- ovalo-jugularisを中心に、ヒトと類人猿、あるいはその他の動物との異同を論ずる。

<今後の予定>
 11月23日 祝日・休講
   30日 佐々木 智彦 先生
 12月 7日 松本 晶子 先生
   14日 熊谷 真彦 先生