第998回生物科学セミナー

乳酸菌由来物質による細胞のリプログラム

太田 訓正(熊本大学大学院生命科学研究部・神経分化学分野)

2014年09月22日(月)    16:30-17:30  理学部3号館 326号室   

腸内フローラを構成する乳酸菌は、腸の働きをよくするだけでなく、アレルギーを抑え、癌に対する抵抗力を高める力があることから、「現代医療のトップランナー」と言われている。しかしながら、乳酸菌による腸上皮細胞のエピゲノム変化や細胞機能への影響などの基礎的情報は、ほとんど調べられていない。
  細胞とバクテリアの相互関係を調べるために、ヒト皮膚細胞(Human Dermal Fibroblasts)に乳酸菌を取り込ませたところ、ES細胞様の細胞塊を形成した。乳酸菌を取り込んだ細胞塊では、多能性幹細胞マーカーが誘導され、三胚葉由来の細胞へと分化した。マイクロアレイ解析では、多能性遺伝子群のマスター遺伝子と考えられているNANOGの発現が増加し、からだの前後軸形成のマスター遺伝子HOXの発現が顕著に減少していた。以上の結果は、乳酸菌がヒト皮膚細胞内に入り込むことにより、宿主細胞のリプログラムを誘導したと考えられる(Ohta et al., PLOS ONE e51866, 2012)。現在、我々は乳酸菌由来リプログラミング因子の分子実体に近づきつつあり、最新の研究結果をご紹介する。