第987回生物科学セミナー

概日時計の発生メカニズム:ES細胞にはなぜ時計がないのか?

八木田和弘 教授(京都府立医科大学大学院医学研究科 統合生理学)

2014年04月18日(金)    15:00-17:00   理学部 3号館3階326号室   

一生にわたって生体内で時を刻み続ける概日時計は、睡眠覚醒リズムをはじめ、内分泌やエネルギー代謝など、極めて多岐にわたる生理現象の日内変動(概日リズム)を制御している。概日リズムの中枢は、視床下部にある視交叉上核(SCN)であることが分かっているが、一方で、末梢組織のほとんどの体細胞にも概日時計が存在する。視交叉上核であれ末梢細胞であれ、哺乳類の概日時計は、初期胚には見られず、発生過程において獲得されることが知られている。しかし、全身の細胞に備わる概日時計がいつどのように形成されるのか、また、概日時計の発生はin vitroで再現できるのか、など概日時計の発生を制御する「原理・仕組み」はこれまでほとんど分かっていなかった。最近我々は、マウスES細胞を用いて、概日時計の成立過程を解析した。その結果、1)ES細胞には概日時計の振動は見られないこと、2)しかし、分化誘導培養によって概日時計が細胞自律性に形成されてくること、3)さらに、分化した体細胞をリプログラミングすることで、再び概日時計が消失すること、などを明らかにした。つまり、細胞レベルの概日時計の成立に個体発生は必要ではなく、個々の細胞自律的に約24時間周期の時計が形成される事がわかった。しかも、この概日時計の成立は、細胞分化と密接に関連した生命現象であることが示され、概日時計と細胞分化の意外な接点が見いだされた。今回、さらに最近我々が明らかにした概日時計発生の分子メカニズムについて、多能性幹細胞や細胞分化制御との関連を含めて紹介したい。