第1204回生物科学セミナー

フロリゲンの分子機能

辻 寛之 准教授(横浜市立大学・木原生物学研究所)

2018年11月21日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

フロリゲンは植物の花芽分化を誘導する強力な運命決定因子である。季節変化を認識した葉で合成され、茎の先端に位置する茎頂メリステム(植物地上部全ての起源となる幹細胞組織)へ輸送されて機能する。私たちはフロリゲンの研究が花と実りの世界をもたらす実用的な興味のみならず、日長・温度の積算と記憶による季節認識、組織間の長距離コミュニケーション、幹細胞組織の機能転換といった興味深い生物学への示唆を与えるものと位置づけ、その分子機能解明に向けた研究を展開している。
フロリゲンの正体は70年間謎であったが、約10年前にFT遺伝子のコードする球状タンパク質であることが解明された。私たちはフロリゲン受容体を発見、活性本体となる転写複合体を同定、その立体構造を決定した。さらにフロリゲンがジャガイモ形成などの驚くべき多機能性を有することを発見し、その分子基盤が複合体のサブユニット変換であることを解明した。
私たちは現在、茎頂メリステムをフロリゲンの機能の場と捉え、独自に開発した微小なメリステム単離・解析系を駆使して新しい分子機能に迫っている。本セミナーではフロリゲンの実体解明から10年間に明らかとなった分子機能とともに、私たちの新しい取り組みを紹介する。

参考文献
Tamaki et al. (2015) FT-like proteins induce transposon silencing in the shoot apex during floral induction in rice. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112; E901-911.

*Tylewicz, S., *Tsuji, H. et al. (2015) Dual role of tree florigen activation complex component FD in photoperiodic growth control and adaptive response pathways. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112; 3140-3145.

*Taoka K, *Ohki I, *Tsuji H et al. (2011) 14-3-3 proteins act as intracellular receptors for rice Hd3a florigen. Nature 476: 332-335.