第1202回生物科学セミナー

系統・倍数性・生殖様式から見た日本のシダ植物相の起源

海老原 淳 研究主幹(国立科学博物館)

2018年10月31日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

"Seed-free vascular plants"と定義されるシダ植物は、明らかな側系統群ではあるが、現在もなお植物相研究の単位として広く用いられている。日本産種の把握は1970年代に600種を超えた頃でほぼ飽和に達し、以降は形態から容易に識別可能な新種・新産種はめったに発見されない状況にある。シダ植物では 倍数体が種子植物よりも高い割合で存在すること、頻繁に種間雑種を形成すること、受精を必要としない無融合生殖種を行う系統が存在すること、等の性質が知られる。したがって、より正確な生物学的ユニットを認識するためには、各形態種について倍数性と生殖様式を解明することが極めて重要であると考えられる。近年では分子系統解析結果にそれらの情報を加味することで、交雑と倍数化を繰り返して起こる「網状進化」の過程の解明が加速している。広域分布種が多い傾向にあるシダ植物では、広範囲を網羅したサンプリングに未だ課題は残るものの、アジア産種に関する近年の情報蓄積の進捗はめざましい。最近の国際共同研究から見えてきた日本産種、特に固有種・準固有種の起源の事例と傾向、さらにそれらの成果を踏まえた分類のアップデートに関する取り組みを紹介する。

参考文献
海老原 淳, 2016. 日本産シダ植物標準図鑑 1. 学研プラス.
海老原 淳, 2017. 日本産シダ植物標準図鑑 2. 学研プラス.