第1237回生物科学セミナー

顕微鏡下で自由自在に:ライブセル解析による植物生殖の鍵分子群の発見から作動原理の解明へ

東山哲也(名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所)

2018年08月29日(水)    15:00-16:00  理学部2号館 講堂   

被子植物は花粉から花粉管細胞をのばし、重複受精によって素早く種子をつくる仕組みを獲得した。この仕組みは被子植物に繁栄をもたらしただけでなく、食糧生産など、人類にとって欠かすことのできない植物の利用につながった。しかし、その過程が複雑な雌しべ組織の内部で進むため、細胞の動態や、鍵となる分子群は明らかではなかった。我々は被子植物の生殖過程を初めて生きたまま映像として捉え、さらに顕微操作により細胞の応答を正確に捉えることで、多くの生理活性分子を同定してきた。特に花粉から伸びる花粉管細胞を正確に卵細胞の位置まで導く「花粉管ガイダンス」において、140年に渡って探索されてきた花粉管誘引物質「LUREペプチド」や、花粉管に対してLURE応答能を与える雌しべ由来の「AMOR糖鎖」などの発見に成功した。雌しべの内部で、様々な鍵分子群が作動しながら、驚くほど精巧に生殖が達成されるシステムが明らかになってきている。「視る」ことに徹底的にこだわる今後の研究の展開や、異分野融合で新たなフロンティアを切り拓く重要性についても議論したい。