黒田研公開ラボセミナー

CRISPR-Cas9システムを利用したゲノムワイドスクリーニングによる新規オートファジー関連分子TMEM41Bの同定

守田 啓悟(東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻分子生物学分野)

2018年09月07日(金)    17:00-18:30  理学部3号館 412号室   

マクロオートファジー(以下、オートファジーと述べる)は、隔離膜/オートファゴソームによって担われる細胞内分解機構である。オートファジーが誘導されると、一重膜小胞である隔離膜が生成され、それが扁平に伸長し、やがて弯曲しながら細胞質の一部を取り囲む。隔離膜の辺縁が閉鎖するとともにオートファゴソームが完成し、リソソームと融合する。融合によってリソソームの酵素がオートファゴソーム内部に達し、取り囲まれた細胞質成分を分解する。オートファジーはこのように複雑な膜動態を経る過程であるため、数多くのオートファジー関連(ATG)タンパク質を必要とする。多くのATG遺伝子は、酵母や線虫などのモデル生物を用いた遺伝学的スクリーニングによって同定されてきた。しかし、哺乳類細胞を用いた網羅的な探索は、CRISPR-Cas9システムの登場以前にはsiRNAを用いるなど非常に限定的な手法でしか行われてこなかった。
本研究では、CRISPR-Cas9システムとオートファジー活性評価蛍光プローブ用いてゲノムワイドスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、新規ATG遺伝子としてTMEM41Bを同定した。TMEM41Bは既知ATGタンパク質であるVMP1と構造的に類似していた。両者とも小胞体に局在する複数回膜タンパク質であり、共通するドメイン(VTTドメイン)を有していた。TMEM41B欠損細胞ではVMP1欠損細胞と同様にオートファゴソーム形成初期で障害が認められた。伸長したオートファゴソーム様の構造は観察されず、初期ATG分子の蓄積と小胞の蓄積が観察された。構造的特徴と表現型が類似していることに加えて、TMEM41BとVMP1はin vivoにおいてもin vitroにおいても結合していることが確認された。加えてTMEM41B欠損細胞のオートファジー不全はVMP1の過剰発現によってレスキューされた。これらの結果からTMEM41BとVMP1は器質的・機能的に相互作用をしながら、オートファゴソーム形成の初期で機能していることが示唆された。