第984回生物科学セミナー

昆虫のユニークな体温調節・エネルギー代謝機構

梅田 真郷(京都大学大学院工学研究科 合成・生物化学専攻)

2014年09月05日(金)    16:40~18:10  理学部2号館 講堂   

昆虫は、地球上で最も繁栄している動物種であり、優れた生理システムと環境適応能力を有している。例えば、我々哺乳動物はわずか数℃の温度域(核心温)でのみ活動できるのに対し、昆虫は数十℃の温度域で活動できることから広温動物とも呼ばれる。また、昆虫類はその飛翔の際に大量のエネルギーを産生することが知られており、その飛翔時の体重当たりのエネルギー消費量はヒトの数十倍以上にも及ぶことが示されている。
 キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster、以下ショウジョウバエ)は、古くからモデル生物として広く使われているが、その代謝経路、生理機能や細胞機能の調節メカニズムに関する情報は未だ少ない。我々は、ショウジョウバエが個体内のエネルギー代謝レベルや酸素濃度、共生細菌、さらには膜脂質流動性に依存したユニークな体温調節行動をとることを見出した。この観察を契機に、ショウジョウバエの細胞膜を構成する脂質組成や脂質分子の配向性、脂質代謝経路等について解析を進めた結果、ショウジョウバエは他の脊椎動物や線虫などのモデル生物とは著しく異なった膜構築・ミトコンドリアでの脂質代謝機構を有することが明らかになった。本セミナーでは、ショウジョウバエのユニークな体温調節とエネルギー代謝の制御機構について最近の知見を中心に紹介したい。

参考文献
1. Kammer, A.E. and Heinrich, B.: Insect flight metabolism. Advances in Insect Physiology 13:133 (1978).
2. Takeuchi, K. et al.: Changes in temperature preferences and energy homeostasis in dystroglycan mutants. Science 323:1740 (2009).
3. Kato, U. et al.: Role for phospholipid flippase complex of ATP8A1 and CDC50A proteins in cell migration. J. Biol. Chem. 288: 4922 (2013).