第1196回生物科学セミナー

ある友達についての記憶と感情を神経科学で人為的に書き換える

奥山 輝大 准教授(東京大学 定量生命科学研究所)

2018年06月27日(Wed)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

 エピソード記憶を構成する要素の中で、「誰」という情報に相当する「他個体についての記憶(社会性記憶)」は、神経メカニズムがほとんど分かっていなかった。私たちは、記憶中枢である海馬の中で、これまであまり着目されてこなかった腹側CA1領域という領域に社会性記憶が貯蔵されていることを発見した。
 カルシウムイメージングによる生理学的な解析から、腹側CA1領域の神経細胞は「細胞集団として」社会性記憶を保持しているという仕組みが推測された。例えば、1番から10番までの神経細胞があるとすると、マウスAを思い出しているときには1、3、8番が興奮し、マウスBを思い出しているときには2、3、9番が興奮するといった具合である。そこで、その決まった細胞集団(例えば、1、3、8番)のみを光遺伝学的手法を用いて興奮させたところ、マウスAについての社会性記憶のみを特異的に操作することが可能になった。テストマウスがマウスAのことを忘れてしまった後だとしても、人為的にマウスAについて想起させることができた。更には、マウスAについての記憶と、恐怖や快感の感情を人為的に連合させることで、テストマウスはマウスAを積極的に忌避、或いは、接近するようになった。
 社会性記憶は、メダカやヒトを含めた社会を形成する生き物にとって、社会で適切に振舞うために必須な脳機能である。種を超えた、社会性記憶の普遍的な神経メカニズムについて、最近の知見も交えて紹介したい。

参考文献
Okuyama et al., Science, 353:1536-1541 (2016)
Okuyama et al., Science, 343:91-94 (2014)