第994回生物科学セミナー

真核生物の翻訳開始における厳密なAUGコドン選択の分子基盤:巨大開始複合体MFCの役割と5MPによる制御

浅野 桂 博士(カンザス州立大学生物学科)

2014年07月15日(火)    16:00~  理学部3号館326号室   

原核生物と真核生物の翻訳開始を大きく分ける特徴に開始コドン選択の厳密性がある。前者ではAUGほか、GUG,UUGが相当の頻度で開始に使われ、後者では開始コドンは原則AUGのみである。近年の研究によりこの違いは真核生物がより多くの開始因子を獲得し、開始の厳密性を向上させて来たことに起因することが示されつつある.すなわち開始因子eIF1、eIF2、eIF3、eIF5が巨大複合体MFCを形成し、 巧妙なメカニズムによってリボソームによる厳密な開始コドン選択を制御する。
スキャニング過程における開始コドン認識に先立ち、eIF1はPサイト近傍に結合し、非AUGコドンと誤って対合した開始tRNAがここに結合するのを妨げる(Pout状態)。ここでは、NMRを用いた手法と酵母の生物学を組み合わせたアプローチにより、eIF1がリボソームの他にも、他のMFC因子と結合し、 Pout状態を保つことを明らかにしたので報告する。この複合体は開始コドンが認識されると解除され、かわってeIF1を除き、eIF5を中心とした、より安定な複合体を形成する。その結果eIF1がリボソームから解離し、Pサイトに安定に開始tRNAが結合する。
eIF5が増産されると遊離のeIF5がスキャニング中のリボソーム開始複合体に結合し、eIF1を中心とした複合体を壊してしまう。その結果、eIF1が誤って解離し開始コドン認識の厳密さを低下させる。eIF5と似た構造をもつ制御因子5MPは、この遊離eIF5と競合することで開始コドン認識の厳密性を担保することを示唆するデータを得たので、この結果もあわせて報告する。

参考文献
Asano, Katsura. 2014.
Why is start codon selection so precise in eukaryotes?