第1187回生物科学セミナー

細胞内で適材適所な配置を可能にする力の理解〜核の中央配置を例に〜

木村 暁 教授(国立遺伝学研究所 細胞建築研究室)

2018年03月22日(木)    16:00-17:00  理学部3号館 327号室   

細胞は自然が造りあげたみごとな建築物です。細胞はその内部で、適切なサイズで形成された細胞内小器官などが適材適所に配置していますが、この『建築家のいない建築』がどのように構築されているかは、多くの謎につつまれています。その理解のためには、材料である生体高分子の構造や活性の理解に加えて、それらが発生する物理的な力や、分子の集団が自発的に秩序を形成するしくみの理解が重要と考えます。
 我々は細胞内の秩序形成のモデルケースとして、細胞核が細胞の中心に移動するしくみを解析しています。これまでに、線虫(C. elegans)胚を材料に、核の中央化の定量観察とコンピュータ・シミュレーションを組み合わせた解析(Dev Cell 2005; J Cell Biol 2007)、核移動を担う遺伝子の同定(PNAS 2011)、ウニ胚とマイクロデバイスを用いた操作実験(J Cell Biol 2016)、を行い、「微小管に沿って細胞内のオルガネラが輸送されることが細胞質で核を引っ張る力を発生し、多数のオルガネラ運動の合力が核を安定的に細胞の中心に運んでいる」とするメカニズムを提案しています。現在は、提案したメカニズムに関する定量的証拠を得るために、生細胞内で核を移動させるのに必要な力の測定に挑戦しています。本セミナーでは「遠心偏光顕微鏡(CPM)」を用いた力測定について報告します。
 セミナーでは、我々が行っている他の研究についても簡単に触れながら、細胞内空間の秩序形成(細胞建築学)について演者の考えを紹介したいと考えています。その上で、参加者の方々と意見を交換させていただければ幸いです。