第981回生物科学セミナー

植物におけるオーキシンの生合成・不活化機構

笠原 博幸 先生(理化学研究所 環境資源科学研究センター)

2014年07月02日(水)    16:40~18:10  理学部2号館 講堂   

オーキシンは植物の形態形成や環境応答の調節において重要な役割を果たす植物ホルモンである。その一種であるインドール酢酸(IAA)はトリプトファンから主に2種類の酵素によって合成された後、輸送や代謝による様々な濃度調節を経て、植物の細胞伸長や細胞分化を制御していることが近年明らかになってきた(1-4)。最近、IAAの不活化経路の解析を行った結果、私たちはIAAを酸化およびグルコシル化により不活化するオキシインドール酢酸(OxIAA)経路の新しい代謝酵素を同定した(4)。この経路で生成するOxIAAとOxIAA-Glcはシロイヌナズナに蓄積する主要なIAA代謝物である。植物においては、IAA濃度の上昇で急速に誘導されるGH3ファミリーによる不活化経路と、このOxIAA経路の2つがIAAの代謝調節において特に重要であると考えられる。一方、IAAと異なる天然オーキシンとしてフェニル酢酸(PAA)が古くから知られているが、その生理的役割については明らかにされていない。最近、私たちはPAAが維管束および非維管束植物に広く存在し、またIAAと同じくYUCCAフラビン含有モノオキシゲナーゼにより合成され、GH3ファミリーにより不活化されるオーキシンであることを示した。PAAはIAAと異なる輸送機構で調節されており、またIAAと一部異なる遺伝子発現を誘導することも明らかになってきた。今回はこれらオーキシンの生合成・不活化機構に関する新しい知見を紹介する。

参考文献
1) Sugawara et al. (2009) PNAS, 106, 5430-5435.
2) Mashiguchi et al. (2011) PNAS, 108, 18512-18517.
3) Dai & Mashiguchi et al. (2013) J Biol Chem, 288: 1448-57.
4) Tanaka et al. (2014) Plant Cell Physiol, 55: 218-28.