第1177回生物科学セミナー

サイズもゲノムも巨大!難敵、針葉樹の適応的遺伝子に迫る

後藤 晋 准教授(東京大学大学院農学生命科学研究科・附属演習林)

2017年12月13日(水)    16:50-18:20  理学部2号館 講堂   

針葉樹は花粉も種子も風によって散布されるものが多く、一般には遺伝的に分化しにくい。しかし、標高が変化すると、気温、積雪深、風の強さ、生物相などが大きく変化するため、比較的狭い範囲内でも標高に沿った形態や性質の変化がしばしば認められる。これまで標高別に採取した種子を用いた圃場実験で標高勾配に沿った成長やフェノロジーの変化が見られることなどから、自生標高に遺伝的に適応していることが予想されていたが、そのような標高適応に関与する遺伝子についてはほとんど明らかになっていなかった。針葉樹は個体サイズが巨大であるだけでなく、ゲノムサイズも巨大であり、シロイヌナズナのようなモデル生物で用いるアプローチは使えない。私たちは、北海道に自生するマツ科モミ属の針葉樹トドマツを対象に、30 年以上が経過し、結実期を迎えた高標高×低標高の標高間交雑で作出された個体を用いて人工交配して分離集団をつくり、標高適応に関与する適応的遺伝子の探索を行っている。本研究では、サイズもゲノムも巨大な難敵、針葉樹を相手に、私たちが挑戦していることについてお話したい。

参考文献
Goto S, Kajiya-Kanegae H, Ishizuka W, Kitamura K, Ueno S, Hisamoto Y, Kudoh H, Yasugi M, Nagano AJ, Iwata H
(2017) Genetic mapping of local adaptation along the altitudinal gradient in Abies sachalinensis. Tree Genet.
Genom. 13: 104. https://doi.org/10.1007/s11295-017-1191-3
Hisamoto Y, Goto S (2017) Genetic control of altitudinal variation on female reproduction in Abies sachalinensis
revealed by a crossing experiment. J. For. Res. 22: 195-198
Ishizuka W, Goto S (2012) Modeling intraspecific adaptation of Abies sachalinensis to local altitude and responses to
global warming, based on a 36-year reciprocal transplant experiment. Evol. Appl 5: 229-244
Kurahashi A, Hamaya M (1981) Variation of morphological characters and growth response of Sahalien fir (Abies
sachalinensis) in different altitudes. Bull Tokyo Univ For 71:101-151 (in Japanese with English summary).