人類学演習Ⅳ/人類学セミナー4

新人の拡散と定着 :個体群・文化の複合ダイナミクスモデル

若野 友一郎 先生(明治大学 総合数理学部減少数理学科)

2017年10月20日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 323号室   

新人の最初の出アフリカは、ゲノム研究などにより約5万から10万年前と推定されている。生物学的な種としてみると新人と旧人は、旧人DNA研究から交雑の証拠が確認されているほど、非常に近縁である。本研究では、認知能力や増殖率などについて、旧人と新人には遺伝的な違いがまったくなく、新人の急速な拡散と定着は(遺伝的な違いではなく)文化的な違いのみによって引き起こされたと仮定するモデルを構築する。高度な文化を持つ集団は、個体密度が増加し、結果として空間的にも分布域を広げるかもしれない。これまでの理論および実証研究では、文化レベルと個体数とに正のフィードバックループがあることが示唆されている。このようなフィードバックがあれば、個体数と文化レベルともに高い集団と、ともに低い集団とが、どちらも安定な状態として実現しうる。従来の理論研究は、空間構造を陽に扱っていなかったため、議論はもっぱら、旧人と接触した最初の新人集団の状態に着目するものであった。本研究では、反応拡散方程式系を用いて空間分布を直接モデル化することで、個体密度と文化レベルともに高い集団と、それらがともに低い集団とが、それぞれ空間的に分布域を持つ(アフリカ集団とアジア集団など)とき、その境界(中東など)におけるダイナミクスの結果として、正のフィードバックループによって形成される高密度高文化集団が、空間的に分布域を拡大するかどうかを理論的に解明する。