第972回 生物科学セミナー

間違いだらけのがん治療:真犯人「がん幹細胞」をやっつけろ!

中山 敬一(九州大学)

2014年04月16日(水)    16:40~     

抗がん剤の歴史は古く、そのルーツは約100年前に第一次世界大戦で使用された毒ガスに遡る。しかし抗がん剤だけでは、ほとんどのがんは根治できない。例外的に大成功を収めているイマチニブ(慢性骨髄性白血病の特効薬)ですら、がんを完全に根絶しているわけではない(投薬を止めれば高率に再発する)。従来の抗がん剤では、がん細胞は殺せても、がん幹細胞を殺すことができないのだ。その理由は、がん細胞は増殖期にいるが、がん幹細胞は静止期という特殊なフェーズに留まっているためである。われわれの研究から、「静止期維持因子」の存在が明らかになってきた。静止期維持因子の機能を抑制してやると、がん幹細胞が静止期から追い出されて抗がん剤に感受性になり、がんが根治することがわかった(静止期追い出し療法)。現在、この治療法をヒトに応用すべく、研究を進めている。

参考文献
1) Takeishi, S., et al. Cancer Cell 23: 347-61 (2013).
2) Inuzuka, H., et al. Nature 471: 104-9 (2011).
3) Matsumoto, A., et al. Cell Stem Cell 9: 262-71 (2011).
4) Nakayama, K.I. & Nakayama, K. Nature Rev. Cancer 6: 369-81 (2006).