第1174回生物科学セミナー

細胞内温度イメージングの開発と応用

岡部 弘基 博士(東京大学 大学院薬学系研究科 生体分析化学教室)

2017年09月29日(Fri)    15:30-16:50  理学部3号館 326号室   

生命において温度の重要性は自明であると認識されてきた一方で、複雑かつ高度に区画化された構造を有する細胞内の局所空間における温度の変動や意義については一切不明であった。そこで、生細胞内に適応可能な蛍光性ポリマー温度センサーを開発し、この応答を定量的蛍光イメージング法により検出することで、細胞内部の局所的な温度が時空間的に変動するとのユニークな現象を発見した。特に、定常状態において細胞内の核やミトコンドリアが周囲と比較して12°Cもの高温を示すなど、細胞内の不均一な温度分布は、均一な水溶液中における熱のダイナミクスや、古典的生化学において想定される緩慢な温度変化とは本質的に異なる性質であった。この結果は、細胞内局所の温度変化が細胞機能の駆動力、すなわち「温度シグナリング」として機能している可能性を示唆する。実際、温度イメージングに加えて赤外レーザー照射を用いた細胞内局所の一過的加熱といった温度操作の検討から、細胞内のRNA顆粒形成において温度シグナリングが形成開始機構を担うことを発見した。これらの結果は、細胞内局所環境としての温度が細胞機能にとって決定的に重要な役割を担うだけでなく、生物学における斬新な因子である魅力的な可能性を提示している。

Okabe et al. (2012) Nature Communications 3:705 | DOI: 10.1038/ncomms171