第1141回生物科学セミナー

活性酸素-Ca2+シグナルネットワーク・オートファジーによる植物の発生・プログラム細胞死・ストレス応答の制御

朽津 和幸 教授(東京理科大学 理工・応用生物科学/イメージングフロンティア)

2017年11月01日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

植物は各細胞の自律的な応答性に基づく分散型の情報処理により個体全体を統御するシステムを進化させて来た。植物免疫、環境ストレス応答、先端成長・発生など植物の高次機能の基盤となる細胞内・細胞間シグナル伝達系、細胞表層における情報統御系の根幹に、活性酸素種(ROS)の積極的生成系とCa2+濃度変化とが重要な役割を担っており、積極的なROSの生成を担うNADPH oxidase (NOX)はそのクロストークポイントに位置づけられる[1-2]。陸上植物のNOX/Rbohは、N末端側細胞質領域に二つのCa2+結合性EF-handを含む高度に保存された活性制御ドメインを持ち、Ca2+結合と種々のプロテインキナーゼを介したリン酸化により相乗的に活性化される[3-10]。シロイヌナズナの10種のうち、RbohC、RbohH/Jはそれぞれ根毛、花粉に局在し、両者がCa2+により活性化され細胞壁空間(apoplast)にROSを生成することが、先端成長に重要な役割を果たす[4,6,11]。最近見出したゼニゴケの2種の欠損変異体の表現型も紹介しながら、制御されたROS生成の調節機構、生理的意義、及びその進化について議論する。一方、イネの花粉成熟過程において、葯のタペート細胞でオートファジーが誘導されること、オートファジー欠損変異体ではそのプログラム細胞死が抑制され、雄性不稔となることを見出した[11-15]。植物の生殖におけるオートファジーと、制御されたROS生成の重要性について議論する。

参考文献
[1] Kurusu T et al. (2013) Trends in Plant Sci 18: 227-233; [2] Kurusu T et al. (2015) Front Plant Sci 6: 427; [3] Ogasawara Y et al. (2008) J Biol Chem 283: 8885-8892; [4] Takeda S et al. (2008) Science 319: 1241-1244; [5] Kimura S et al. (2012) BBA 1823: 398-405; [6] Kaya H et al. (2014) Plant Cell 26: 1069-1080; [7] Kärkönen and Kuchitsu (2015) Phytochem112: 22-32; [8] Kimura S et al. (2013) J Biochem 153: 191-195; [9] Drerup M et al. (2013) Mol Plant 6: 559-569; [10] Kawarazaki T et al. (2013) BBA 1833: 2775-2780; [11] Kaya H et al. (2015) Plant Signal Behav 10: e989050; [12] Kurusu T et al. (2014) Autophagy 10: 860-870; [13] Hanamata S et al. (2014) Front Plant Sci 5: 457; [14] Kurusu T et al. (2016) Bioimages 24: 1-11; [15] Kurusu T and Kuchitsu K (2017) J Plant Res 130: 491-499.