第1171回生物科学セミナー

臓器脂質の量と視点においた代謝バイオロジーと疾患戦略

島野 仁 教授(筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科)

2017年09月29日(Fri)    17:00-18:30  理学部3号館 310号室   

これまで動脈硬化をはじめとして生活習慣病と脂質の関連を考える際、主に血中脂質の量的変動が視点となり、臓器に蓄積する脂質の量的質的変動についてはあまり関心が払われていなかった。 過剰な臓器脂質の蓄積はインスリン作用不全をはじめとして臓器機能不全から臓器障害につながり脂肪毒性とよばれている。 我々は、生活習慣病の中心病態である脂肪毒性を、脂質代謝合成の視点で展開してきた。代謝性シグナルや病態の重要なnodeとしてすでに認識されている脂質合成転写因子SREBP-1や飢餓ストレス応答転写因子CREBHが生活習慣病に深く関与しその病態カニズムを明らかにしながら臓器脂質の量的栄養制御転写因子としての役割を確立してきた。一方、脂肪酸伸長酵素Elovl6が脂肪酸鎖長を介して臓器の脂肪酸組成を制御し、この脂質の量でなく質の違いがインスリン抵抗性、2型糖尿病、NASH、動脈硬化の発症・進展に重要な影響をおよぼすことを示してきた。さらに脂質の量や質の制御の重要性は代謝性疾患を超え、炎症、線維化、細胞増殖制御、がん、脳精神機能と多様な臓器と生理、病態に拡がりをみせている。脂質は個別の臓器、疾患、生命現象の枠を越えるため、脂質という共通のキーワードで様々な分子メカニズム研究にも貢献できると考えている。「転写因子制御による量的制御」と「脂肪酸組成による質的制御」を組み合わせた新しい脂質代謝を科学する上でシステム的な発想特に時間的コードとトランスオミクスの視点が必須であり議論をお願いできれば幸いである。