第1165回生物科学セミナー

生物の模様と形

近藤 滋 教授(大阪大学大学院生命機能研究科 パターン形成研究室)

2017年07月20日(Thu)    17:00-18:30  理学部3号館 412号室   

Turing モデルは,動物の自律的形態形成を説明する理論としては,はじめて数学的に定式化されたものである.一般的には,「反応拡散理論」と呼ばれるように,2 種類の化学物質の反応と拡散のパラメータを操作するだけで,様々な空間パターンを作ることができ,その考え方は,Turingによる論文の発表後50 年を経て,漸く,生命科学者の間に浸透してきた.それと同時に,現実の生物系に於いては,オリジナルのTuring モデルの想定とは異なる素過程が機能していることも解ってきている.近藤は,動物の模様形成が,Turingの原理に従って起きる, と言う作業仮説を建てて,約20年間研究を行ってきた結果,ゼブラフィッシュの模様形成原理を細胞の相互作用のレベルでほぼ理解することに成功した. ゼブラフィッシュの模様形成は 2 種類の色素細胞(メラノフォア,ザンソフォア)の相互作用によってつくられる.それぞれの細胞の挙動を詳しく解析したところ,全体として Turing の理論から導かれる縞模様形成の必要条件を満たすことが解った.しかし,オリジナルのTuring のモデルとは重要な点で違いが有った.遠距離のシグナル伝達は,モデルで想定されていたリガンドの拡散では無く,細胞から伸びる突起を介して起きる.それらを数式化すると,確かに Turing Pattern の形成条件(近距離の活性化+長距離の抑制)を満たしていたため, Turing モデルの変形,と解釈することは可能であるが,拡散を使った定式化がそのままでは当てはまらない.  現在,多くの実験研究者が,反応拡散モデルを作業仮説に研究を進めているが,皮膚模様の場合と同様,細胞が拡散以外のシグナル伝達法を採用することで,オリジナルの Turing モデルは当てはまらない状況が多数あるはずである.反応拡散にこだわると,存在しない「拡散リガンド」を探し続けることになる可能性もあり,モデルの方の手直しが求められている. 講演では,実験サイドからの要請を入れて,より一般化した Turing モデルを提案し,会場の皆さんと一緒に議論したい.モデルから実験系への一方通行でなく,実験事実に基づいたモデルの進化が起こることが,生命科学と数学の融合につながると考えている.