第1169回生物科学セミナー

メディエーターの結晶構造から明らかになってきた転写開始のメカニズム

野澤 佳世 博士(Max Planck Institute for Biophysical Chemistry)

2017年08月02日(水)    13:00-14:00  理学部3号館 327号室   

タンパク質の鋳型となる mRNA や遺伝子のオン・オフを切り替える小分子 RNA は、 RNA ポリメラーゼ II (Pol II)が、種々の基本転写因子と共同しながら合成している。しかし、Pol II と基本転写因子だけでは、細胞の分化や生育、発生状態に応じた転写制御を行うことはできない。メディエーター (MED)は、転写開始領域から遠く離れたエンハンサーDNA と転写マシーナリーを直接繋ぐことによって、真核生物のほとんどすべての遺伝子に活性化シグナルを伝える、重要な転写コファクターである。酵母において MED は、1.4 MDa、25 サブユニットからなる超分子複合体であり、ヘッド、ミドル、テール、キナーゼから構成される、そのモジュールのほとんどが菌類からヒトまで、保存されている。テールやキナーゼモジュールが、アクチベーターとの相互作用に関係する一方で、ヘッドとミドルモジュールは、MED のコア (cMED)と呼ばれ、プロモーター領域で、Pol II や基本転写因子 TFIIB、TFIID、TFIIE、TFIIH に直接作用して、転写開始前複合体 (PIC)の形成を促進する。 本研究では、X 線結晶構造解析を用いて、酵母の生存に必要不可欠なサブユニットすべてを含む、400 KDa、15 サブユニットの cMED の構造を可視化した。結晶構造から cMED は、13 のサブモジュールで構成されていることが明らかとなり、中でも Med14 は、ユビキチン結合酵素に似たユニークなコンフォメーションをとっていた。得られた cMED の構造を PIC の低分解能電子顕微鏡像に当てはめることで、MED と Pol II の新たな結合面が可視化されると共に、cMED のフックサブモジュールが、Pol II Rbp1 サブユニットの C 端ドメイン (CTD)のリン酸化を促進する機構が示唆された。