第1166回生物科学セミナー

陸上植物の体制進化の共通性と多様性

長谷部光泰 教授(基礎生物学研究所)

2017年07月03日(Mon)    16:50-18:30  理学部2号館 講堂   

 ゲノム生物学と分子発生学の進展により、後生動物では、発生遺伝子ネットワークが左右相称性動物の共通祖先で確立され、その後の系統ごとの改変によって形態多様化が引き起こされたことが明らかになった。一方、陸上植物では被子植物以外の分類群でゲノム解読が行われておらず、形質転換を介した遺伝子機能解析が難しかったことから、発生システムの進化の概要は不明だった。そこで、我々は国際コンソーシアムを結成し、コケ植物ヒメツリガネゴケ、小葉類イヌカタヒバのゲノムを解読し発生遺伝子の全体比較を行うとともに、遺伝子改変が容易なヒメツリガネゴケを用いて発生関連遺伝子の個別機能解析を行ってきた。その結果、陸上植物においては、器官レベルでの発生遺伝子ネットワークはほとんど保存されていないが、細胞分裂や細胞分化など細胞レベルでの発生遺伝子ネットワークは良く保存されていることがわかってきた。本セミナーでは、まず、陸上植物全体におけるグランドプランと言うべき発生システムの共通性は何かをこれまでの研究結果から議論したい。
 進化学の面白さは共通性とともにその多様性にある。花序が花のように変化したドクダミの偽花、食虫植物の食虫性、オジギソウのお辞儀運動、モウセンゴケの動く触毛、ハエトリソウの2回刺激すると閉じる記憶機構など、祖先から何が変わって進化したのかを、これまでの生物学の知見ではうまく説明できない。しかし、我々はゲノム解析技術の向上と形質転換法の改良により、これらの植物を用いた近代的な進化研究を可能にしたので紹介する。

参考文献
1. Fukushima, K. et al. 2017. Genome of pitcher plant Cephalotus reveals genetic changes associated with carnivory. Nat. Ecol. Evol. 1: 59.
2. Li, C. et al. 2017. A Lin28 homolog reprograms differentiated cells to stem cells in the moss Physcomitrella patens. Nat. Commun. 8: 14242.
3. Fukushima, K. et al. 2015. Oriented cell division shapes carnivorous pitcher leaves of sarracenia purpurea. Nat. Commun. 6: 6450.
4. Kofuji, R. and Hasebe, M. 2014. Eight types of stem cells in the life cycle of the moss Physcomitrella patens. Curr. Opin. Plant Biol. 17, 13-21.
5. Banks, J.A., Nishiyama, T., Hasebe, M., Bowman, J.L.et al. 2011. The Selaginella genome identifies genetic changes associated with the evolution of vascular plants. Science 332, 960-963.