第1159回生物科学セミナー

ゲノム編集技術によるiPS細胞での一塩基置換と遺伝子治療応用

堀田秋津博士(京都大学 iPS細胞研究所(CiRA) 未来生命科学開拓部門)

2017年05月29日(月)    16:00-17:00  理学部3号館 303号室   

iPS細胞は多種多用な疾患患者から樹立することができ、旺盛な増殖能力と分化多能性を持つために、細胞レベルでのヒト病態学へと幅広く応用されている。これと並行して、近年のCRISPR-Cas9に代表されるゲノム編集技術の革新的発展により、ヒトiPS細胞での精密な遺伝子改変が可能となってきた。以前我々は、先天性単一遺伝子疾患の中でも重症を呈するDuchenne型筋ジストロフィー患者よりiPS細胞を樹立し、種々の方法で原因遺伝子変異修復を行い報告した。ジストロフィンタンパク質に限っては、非相同末端結合(NHEJ)修復経路を利用してエクソンスキッピングを誘導することでタンパク質の読み枠を回復できるため、生体内でも適用可能である。我々が取り組むエクソンスキッピング効率向上方法について紹介したい。
一方、増殖の盛んなiPS細胞においても相同組換え(HDR)修復経路を用いた塩基置換は薬剤選択等を用いない限り難しく、一本鎖DNAを鋳型とした一塩基置換は特に難易度が高い。我々は、転写時と翻訳後で二重に制御されたCas9をpiggyBacベクターで組み込むことにより、非常に高効率な塩基置換が可能となることを見出した。疾患iPS細胞での遺伝子修復法は、疾患再現実験や薬剤評価の他、将来的には遺伝子治療にも使える可能性を秘めた技術として、今後の更なる発展が期待される。日進月歩で進化するゲノム編集技術を用いた新しい遺伝子治療のあり方について、皆様と議論出来れば幸いである。