第1151回生物科学セミナー

マウス視交叉上核には複数の概日振動体が存在する ー その局在と機能

吉川朋子 博士(近畿大学 医学部 解剖学教室)

2017年03月22日(水)    13:30-15:00  理学部3号館 326号室   

視交叉上核(SCN)に存在する概日時計は、外界の光周期の変化に応答し、動物の行動や生理機能の季節応答を制御する。夜行性げっ歯類の行動リズムを調べた研究から、行動の概日リズムは、2つの概日振動体によって制御されるという「2振動体仮説」が古くから提唱されている1。すなわち、活動の開始を制御するEvening(E)振動体、活動の終了を制御するMorning(M)振動体の2つが存在し、それらの位相関係により動物の活動期の位相と長さが決められると考えられている。しかし、EおよびM振動体の存在は仮説のまま、その実態は明らかにされていなかった。
近年、概日時計に関わる時計遺伝子の発現リズムをルシフェラーゼ発光によりイメージングし、概日時計の挙動を細胞レベルで追跡する技術が大きく進歩した。この技術を利用したマウス SCN の解析により、E および M 振動体は SCN 内で吻側と尾側に分かれて局在することが明らかになった2。さらに詳細な局在を明らかにするため、我々は SCN の水平断スライスの発光リズムをピクセルレベルで統計的に解析する方法を確立した。その結果、SCN を4つの振動領域に分けることができた。本セミナーでは、この4つの振動領域の局在と機能について紹介したい。


参考文献
(1) Pittendrigh and Daan, J. Comp. Physiol. A 106, 333-355 (1976)
(2) Inagaki et al., PNAS 104:7664-7669 (2007)