第1085回生物科学セミナー

膜小胞を介した細胞間メラニン輸送

高橋淑子教授(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻動物発生学研究室)

2017年01月26日(木)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

私達の皮膚は、絶え間なく襲いかかる紫外線から体を守る大切な器官である。中でも特に重要な役割を担うメラニンは色素細胞で産生されると、顆粒状となって隣接する表皮細胞へと運ばれる(「メラニン輸送」)。細胞内小器官ほどもある大きなメラニン顆粒が、一体どのようなしくみで細胞間を輸送されるのだろうか?従来のメラニン輸送の研究のほとんどは、“培養シャーレの上”で行われたものであり、そのしくみについては諸説あった。私達はニワトリ胚の利点を活かして、生体内で起こるメラニン輸送をライブイメージング解析することに成功し、以下の現象を観察した。①まず色素細胞の細胞膜がブレッビングを起こす。②この細胞膜ブレッブ内にメラニン顆粒が包み込まれる。③メラニン顆粒を包み込んだブレッブが色素細胞からくびれ切れ、膜小胞となって細胞外に放出される。④放出された膜小胞が、となりの表皮細胞へと取り込まれる。これらの知見により、これまでの論争に一定の決着がもたらされた。また最近では、色素細胞の2次元平面内における、特徴的な配置パターンも見出している。色素細胞を中心とした皮膚バイオロジーを議論したい。

参考文献
・Tadokoro, R. et al., Scientific Reports, 6: 38277 (2016)
・Atsuta, Y. and Takahashi, Y., Development, 142:2329-2337 (2015)
・Yoshino, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 111(18): 6660-6665 (2014)
・Takahashi, Y. et al., (Review) Tissue interactions in neural crest cell development and disease. Science, 341(6148): 860-863 (2013)
・Saito, D. et al., Science , 336(6088): 1578-1581 (2012)