人類学演習Ⅰ・Ⅱ/人類学談話会

東アジアにおける馬の飼育形態の復元

覚張 隆史さん(北里大学・日本学術振興会特別研究員)

2014年05月30日(金)    16:40~18:10  理学部二号館 402教室   

馬(Equus caballus)は約5500年前頃にユーラシアの草原地帯および北欧で家畜
化され、馬の飼育文化は車輪の開発を契機にさらに世界中へ広まった。その後、青銅
器時代において馬の飼育文化はユーラシアのほぼ全域に普及し、馬は各地域で交易や
軍事のために利用されてきた。なかでも、中国の殷代以降(約3600 年前~)は、
「車馬抗」「馬坑」と呼ばれる数百頭に及ぶ馬の埋葬が一般化し、東アジアにおける
馬の飼育は西側では類を見ないほど大規模化したと考えられる。この馬飼育の大規模化
の要因として、中央集権国家の成立過程で生じた馬飼育のシステム化が挙げられる。
馬飼育のシステム化で重要な点は、大規模な生産牧場である「牧」の設置と、生産方法
の規則化の2つが挙げられる。これらのシステム化は、古代中国の行政法および刑法
である律令に明記されており、日本列島においても日本国が成立した大宝律令以降に
導入されたと考えられている。
これら2 つの存在を実証するためには、従来の考古遺物を基準とした手法だけでな
く、馬の遺体自体から抽出した生態情報に基づく新たな評価法を確立させる必要があ
る。そこで、本発表では馬の同位体比から生態情報を抽出することで、これらのシス
テム化の存在を実証的に評価することを試みた。また、同位体比だけでなく馬の遺伝
情報を組み合わせることで、より具体的な馬の飼育形態を復元する試みの一端も紹介
する。