塩見研公開ラボセミナー

高次クロマチン構造の形成と維持の分子機構

中山 潤一 教授(基礎生物学研究所 クロマチン制御研究部門)

2016年12月22日(木)    17:00-18:00  理学部3号館 326号室   

真核細胞の染色体には、ヘテロクロマチンと呼ばれる高度に凝縮した構造が存在している。通常このヘテロクロマチン領域には、単純な反復配列や転移因子が存在しており、細胞は凝縮したクロマチン構造を形成することで、不要な遺伝子の発現や反復配列の増幅を抑制している。一方このヘテロクロマチン構造は、セントロメアやテロメアなどの染色体機能ドメインの構築に必須なだけでなく、エピジェネティックな遺伝子発現制御にも重要な役割を果たしている。これまでの研究によって、ヘテロクロマチンがどのように形成されるのか、その分子構造が明らかにされてきた。ヘテロクロマチンが形成される領域は、ヒストンH3の特徴的なメチル化修飾によってマークされており、このメチル化マークを認識してHP1と呼ばれるヘテロクロマチンタンパク質がクロマチンに結合することで、ヘテロクロマチンに特徴的な高次クロマチン構造が形成される1)。また、凝縮したヘテロクロマチンの外観から、この領域からの転写は抑制されていると長い間考えられてきたが、実際にはヘテロクロマチン領域にも弱い転写活性が存在し、しかもその転写されたRNAを分解する過程が、抑制的なクロマチン構造を維持するのに必要なことが示唆されつつある2), 3)。本講演では、染色体機能に必須なヘテロクロマチンとよばれる高次クロマチン構造が、どのように形成されまた維持されているのか、その分子機構に関しての最新の知見を含めて議論したい。

1) Nishibuchi et al. Nucleic Acid Res 42: 12498-12511 (2014)
2) Ishida et al. Mol Cell 47: 228-241 (2012)
3) Hayashi et al. PNAS 109:6159-6164 (2012)