第1119回生物科学セミナー

ヒト大脳皮質の発生と進化に関係する分子メカニズムの探索

鈴木 郁夫 博士(Institute of Interdisciplinary Research (IRIBHM) and ULB Neuroscience Institute (UNI), University of Brussels (ULB))

2016年11月29日(火)    13:00-15:00  理学部2号館 201号室   

ヒトの進化過程において、大脳皮質は大幅に拡大し、複雑化してきたが、どういった分子的メカニズムによってそれがもたらされたのかについては未解明な部分が多い。近年の比較ゲノム研究の成果から、ヒト進化過程で獲得、もしくは欠失した遺伝的要素が多数報告されている。中でもヒトとそれ以外の類人猿でコピー数が異なる遺伝子は、その多くが脳の形態異常や精神疾患との関連が知られている染色体領域にコードされていることから、脳進化との関連性が疑われてきた。そこで本研究では、ヒト進化系統においてコピー数が増加した遺伝子(ヒト特異的重複遺伝子)に着目し、それらがヒト大脳皮質発生に関与している可能性を検討した。第一に、ヒト胎児脳サンプルと、ヒトES細胞から分化誘導した大脳皮質細胞を用いた網羅的発現解析を行うことで、ヒト特異的重複遺伝子のヒト皮質形成における発現パターンを明らかにした。次いで、特に顕著な発現パターンを示す候補遺伝子については、ヒト胎児脳切片においてin situ hybridizationを行い、より詳細な時空間的な発現パターンを明らかにした。これらの解析によって見つかった興味深い発現パターンを示す重複遺伝子について、過剰発現実験を行うことで、大脳皮質発生における機能的な関与の有無を調べた。この発表では、そのうちの1つの重複遺伝子ファミリーについての研究結果を中心に紹介する。
 

<参考文献>
1.Sudmant et al. "Diversity of human copy number variation and multicopy genes." Science 330.6004 (2010): 641-646.
2.Suzuki and Vanderhaeghen "Is this a brain which I see before me? Modeling human neural development with pluripotent stem cells." Development 142.18 (2015): 3138-3150.