第1079回生物科学セミナー

生物の相似性を保証する濃度勾配スケーリング

猪股 秀彦(理化学研究所体軸動態研究チーム)

2016年10月19日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

地球は、いろいろな「かたち」の生命で満ちあふれています。このような、生物の「かたち」はその種を特徴付ける最も基本的な要素の一つであり、発生過程及び成長過程において形づくられます。見かけ上は複雑に見える生物のかたちも、実は多くの共通する基本構造から構成されています。例えば、ほ乳類は頭部・手足・胴体などの基本構造からできており、この基本構造の「比率」を変えることによって(例えば、ロバの足を長くするとウマ様の形になります)、いろいろな形状の生物を作り出している可能性があります。個々の種は「種固有の比率」を維持することによって、他の生物とは異なる「かたち」を保持していると考えられます。
種固有の比率は発生過程においても頑なに維持されています。1975 年にCooke はアフリカツメガエル卵の半分を外科的に切除し、半分サイズの胚を人工的に作りました。すると、不思議なことに、相似形を維持した半分サイズのオタマジャクシが発生することを発見しました。これは発生過程において、胚のサイズが半分になると、目・口などの各組織も半分に縮小し、全体の「比率」を一定に保つメカニズムが存在することを示しています。このような、胚のサイズに影響されることなく相似形を維持する機構をスケーリングと呼びます。スケーリングが保証されているために、大きなカエルも小さなカエルも同じ「かたち」になることができるのです。
しかし、発生システムがどのようにしてスケーリングを保証しているのかは長い間謎でした。生物の複雑な組織パターンは、モルフォゲンと呼ばれる分泌蛋白質の濃度勾配によって形成されます。今回の講演では、スケーリングが保証されるメカニズムを濃度勾配の観点から紹介したいと思います。

参考文献
ダーシー・トムソン 「生物のかたち」
フィリップ・ボール 「かたち」