第1084回生物科学セミナー

植物の重力屈性における重力シグナリング機構の解析

森田(寺尾)美代(名古屋大学大学院生命農学研究科)

2016年09月09日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

重力屈性は、植物が重力の方向を認識した上で、根を水分や栄養分が豊富な地中へ、地上部を光合成や生殖に有利な上方へと各器官を配置する重要な環境応答の一つである。シロイヌナズナを用いた重力屈性の分子機構の研究から、重力感受細胞が同定され、その細胞に含まれる比重の高い色素体(アミロプラスト)の沈降が重力方向を受容する為に重要であることが明らかにされている。また、オーキシンの器官内偏差分布の形成とオーキシン応答機構の一端が解明されてきた。しかし、アミロプラストの位置が感受細胞内でどのような信号に変換され、オーキシンの器官内偏差分布へと繋がるのか、という感受細胞内での重力シグナリング機構に関しては知見が乏しい。我々は、重力感受細胞に着目したトランスクリプトーム解析から見出したDGE1/AtLAZY1 、DGE2 およびDTL (DLLs;DGE1/AtLAZY1 like)が、花茎、胚軸、根全ての重力応答器官において、重力屈性に冗長的に機能することを示した。また、DLLs は重力感受細胞で機能し、アミロプラスト沈降による重力受容後からオーキシン偏差分布形成に至るシグナリングの過程に関与することを明らかにした。さらに、DLLs は側根や側枝の伸長角度の制御にも影響を与えることを示した。このことはDLLs が、正重力屈性や傾斜重力屈性を統一的に説明するGravitropic Setpoint Angle (GSA)として定義された重力を指標とした器官の伸長方向制御に重要な役割を持つことを示している。
DLLs には機能が類推できるドメインやモチーフが無く分子機能の推定が困難であるため、分子機能の解明を目指して相互作用因子の探索を行った結果、RCC1 superfamily に属する4 蛋白質RLD(RCC1-like domain protein) 1~4 を単離した。シロイヌナズナにおける発現解析からRLD1, 4 は根の重力感受細胞で発現すること、rld1 rld4 二重変異体の表現型解析から、少なくともRLD1,4 は重力屈性に機能することを明らかにした。rld1~4 多重変異体の表現型解析から、RLD はオーキシン輸送制御に関わることが推測された。以上の結果から、重力感受細胞内におけるDLLs-RLD の相互作用が、重力刺激に応じたオーキシン輸送制御に重要な役割を担う可能性が示唆された。