第1086回生物科学セミナー

生物運動の基本要素:収縮・振動・分裂・回転・変形

石渡信一(早稲田大学・理工学術院・物理学科)

2016年09月16日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

生物運動には、収縮、振動、分裂、回転、変形といった様々な運動様式がある。これらの運動様式は、生理機能に応じて、ナノサイズの分子機械 [1]から、ミクロの分子集合体、そして細胞や組織の運動に見ることができる。我々は、その中で横紋筋収縮系(サルコメア、筋原線維、筋線維)に見られる振動現象(SPOC)[2, 3]に着目する。SPOCとは何かを述べた後、SPOC現象を再現できる数理モデル[3, 4, 5]を紹介する。さらに、SPOC特性が心拍の基礎に存在する可能性を述べる。次に、染色体分配装置である紡錘体(Spindle)のミクロ力学特性[6]を紹介し、それに関連して細胞分裂のタイミングが外力パルスによって制御されるという、細胞力学の結果[7]を紹介する。そして、人工的なミクロ空間(油中に形成された液滴:人工細胞モデル)中に細胞骨格(アクチンフィラメントや微小管)と分子モーター(ミオシンやキネシン・ダイニン)を閉じ込めることで、細胞質分裂時に形成される収縮環[8]や、細胞内動態の一つである回転流動が再現されること[9]、すなわち、細胞動態を担う分子装置の形成にとって、物理的な境界条件が重要であることを指摘する。最後に時間があれば、細胞温度の顕微イメージング(および局所熱パルスを用いた細胞機能の制御)に関する最近の研究成果を紹介する[10, 11]。
参考文献
[1] 原田慶恵、石渡信一編(2014) 「1分子生物学」化学同人 [2] S. Ishiwata, Y. Shimamoto,& N. Fukuda(2011) Prog. Biophys. Mol. Biol. 105,187 -98. [3] 石渡信一、佐藤勝彦(2015) 日本物理学会誌70,519-29. [4] K. Sato,M. Ohtaki,Y. Shimamoto, & S. Ishiwata(2011) Prog. Biophys. Mol. Biol. 105,199-207. [5] K.Sato, Y. Kuramoto, M. Ohtaki, Y. Shimamoto, & S. Ishiwata(2013) Phys. Rev. Lett. 111,108104. [6] J. Takagi ,T. Itabashi, K. Suzuki, T.M. Kapoor, Y. Shimamoto, & S. Ishiwata(2013) Cell Rep. 5, 44-50. [7] T. Itabashi, Y. Terada, K. Kuwana, T. Kan, I. ShimoSyama, & S. Ishiwata (2012) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 7320-5. [8] M. Miyazaki, M. Chiba, H. Eguchi, T. Ohki, & S. Ishiwata(2015) Nature Cell Biol. 17, 480-9. [9] K. Suzuki, M. Miyazaki, J. Takagi, T. Itabashi, & S. Ishiwata(2016) under revision. [10] M. Suzuki, V. Zeeb, S. Arai, K. Oyama, & S. Ishiwata(2015) Nature Meth. 10,802-3. [11] K. Oyama, V. Zeeb, Y. Kawamura, T. Arai, M. Gotoh, H. Itoh, T. Itabashi, M. Suzuki, & S. Ishiwata (2015) Sci. Rep. 5, 16611.