第1100回生物科学セミナー

ゲノム情報の安定性を維持する分子機構とその破綻

中西 真 教授(東京大学医科学研究所癌・細胞増殖部門癌防御シグナル分野)

2016年05月19日(木)    16:00-17:30  理学部2号館 講堂   

真核細胞は、電離放射線、酸化的ストレス、がん遺伝子活性化などのさまざまなゲノムストレスを恒常的に受けている。またDNA複製過程におけるDNA維持メチル化の異常も染色体不安定化の原因となっていることが分かってきた。これらのストレスに対して安定的に遺伝情報を維持するために、細胞はDNA損傷応答機構を活性化する。活性化したDNA損傷応答機構はさまざまな細胞応答を誘導し、個体においてゲノム情報に異常を持った細胞の蓄積、すなわち“がん化”を防いでいると考えられている。我々はこれまで、ゲノムストレスにより惹起される細胞応答を制御する分子基盤を明らかにし、これらの応答が実際に個体レベルでの発がんに対して防御的に働くことを証明してきた。
本セミナーでは、我々のこれまでの研究成果を中心に、DNA損傷応答機構によるがん化防止機序について、個体レベルでの解析結果を含めて紹介する。また、DNAメチル化異常による染色体不安定化の分子基盤や、DNA損傷応答機構を利用した新たながん治療法や予防法開発への展望について議論したい。

参考文献
(1) Shimada M., et al. Cell 132, 221-232 (2008)
(2) Nishiyama A., et al., Nature 502, 249-253 (2013)
(3) Johmura Y., et al., Mol Cell 55, 73-84 (2014)
(4) Hirokawa, T., et al., Cancer Res. 74, 3880-3889 (2014)
(5) Johmura Y., et al., Nature Communications 7, 10574 (2016)