第1096回生物科学セミナー

嗅覚連合学習に関わる長期シナプス可塑性

髭 俊秀博士(Janelia Research Campus, Ashburn, VA, USA)

2016年06月03日(金)    14:30-16:00  理学部2号館 講堂   

学習中に脳内のどのシナプスでどのような可塑性が起きて行動の変化をもたらすかを記述するのは、神経科学における重要なテーマの一つである。ショウジョウバエの嗅覚連合学習は、その神経基盤のシンプルさと遺伝学的手法の利便性により、貴重なモデル系の一つとして活発に研究されてきた。哺乳類同様、ショウジョウバエにおいても罰性・報酬性の非条件刺激の情報はドーパミンによって担われており、これが嗅覚系第三次ニューロンであるキノコ体ニューロンに作用して嗅覚情報を変化させると考えられてきた。しかしながら肝心のシナプス可塑性に関してはこれまで報告がなかった。今回我々はキノコ体投射性ドーパミンニューロンを光遺伝子により操作し、嗅覚刺激と同時に活性化させることで、キノコ体出力シナプスにおいて長期可塑性を誘導できる事を発見したのでこの結果を紹介する。重要な事に、同様の操作によって行動レベルにおいても嗅覚連合学習を再現する事ができた。このシナプス可塑性がどのようにして行動変化をもたらすのか、キノコ体の嗅覚情報処理全体における役割も含めて議論したい。