人類学演習/人類学セミナーⅠ・Ⅱ(人類学談話会)

ヒトゲノム多様性の生物医学

徳永 勝士先生(東京大学医学系研究科人類遺伝学分野)

2016年04月22日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 402号室   

私は免疫系に興味を持って遺伝的多型の研究を開始した。なかでもHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子群については、高度な遺伝的多型性、自己・非自己の識別や免疫応答制御などの重要な役割、多数の疾患との関連、移植における適合性の決定要因などのさまざまな特徴に強く興味を持った。共同開発したHLAのDNAタイピング法は骨髄バンクのドナータイピングに採用され、骨髄移植に貢献した。HLAアリル・ハプロタイプ分布の顕著な集団差を利用して、日本人と近隣諸集団の遺伝的近縁性を分析し、日本人の形成過程を推定した。HLAと各種の多因子疾患との関連解析で得た経験より、ゲノム全域について関連解析する時代を待望していたところ、大規模同時並列SNP解析システムが市販化された。我々もナルコレプシー感受性をはじめとして多くのGWASを実施したが、C型肝炎のインターフェロン治療に対する応答性遺伝子の発見は短期間に臨床検査の場に活かされた。この遺伝子検査は論文発表の翌年には先進医療として認められ、最も多く実施されるヒト遺伝子検査のひとつになった。研究者間のデータ共有を目指して、ゲノム多様性・疾患関連データのデータベース構築やオープンアクセスジャーナル出版に努めている。現在、肝炎ウイルス関連疾患、結核についてはヒトゲノム多様性解析を行うとともに、病原体ゲノム多様性との相互作用解析も開始している。