第1074回生物科学セミナー

素数ゼミの謎:絶滅回避の適応戦略

吉村 仁 教授(静岡大学 創造科学技術大学院)

2016年06月29日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

素数ゼミ(周期ゼミ)が何故周期的な大発生を繰り返すのか?そして、その周期が17年・13年の素数の周期しかないのはなぜか?新生代の氷河期を期にして数奇な経路をたどり現在の素数ゼミに至る進化を、想像を逞しくして考える。まず中生代の素数ゼミの祖先は、知られている他のセミと同様、「温度依存の成熟」をしていたと考えられる。例えば、アブラゼミが約7年間で成虫になるが、成育環境の良し悪しで5年以下にも8・9年にもなる。つまり、樹木と同様「有効積算温度(温量指数)」に比例して、生長していると想定される。ここで、北アメリカを氷河期が襲ったため、多くの森林が消えて、わずかにリフュージア(Refugia:地学用語の避難地)が南部を中心に幾つかできる。祖先ゼミはリフュージアでは生き残るが、成長が極端に遅くなり成虫まで10数年かかるようになる。このため、成虫に羽化したときの雌雄の出会いが極端に難しくなり、周期性を獲得した個体群のみが絶滅を回避する。この時点では周期ゼミは、場所毎に様々な周期を持っていた。その後気候が温暖化して周期ゼミは分布を広げて、異なる周期ゼミと出会うことになる。この出会いが、素数の周期性だけが生き残るメカニズムを生むのだ。まず、素数周期は、他の周期との出会いが極端に少なく、時間的に隔離されている。ところが、他の周期のセミたちは頻繁に交雑を繰返し、交雑個体は発生年がずれてしまうため、個体数を減少させる。そこで、個体数を保っている素数周期のセミと出会うと、非素数のセミのほとんどのメスが素数周期のオスと交雑してしまい、激減する。このメカニズムは正のフィードバックがかかり、すべての個体数の少ない周期は必然的追い込まれる。そして、素数である17年と13年の周期のセミだけが生き残った。素数ゼミの例は、生物の進化は絶滅回避の観点から何が生き残ったかを考える必要があると示唆していると思う。