第1072回生物科学セミナー

神経も筋肉も持たない動物ー平板動物

中野裕昭 准教授(筑波大学 生命環境系 下田臨海実験センター)

2016年06月01日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

平板動物は3層6種類の細胞からなる、直径0.5-3mm 程の海産動物である。消化系、呼吸器系、排出系、生殖系の器官や組織はおろか、神経細胞も筋肉細胞もないとされる。背腹軸はあるものの、前後軸、左右軸を欠き、固着性でも寄生性でもないことから、現生で一番単純な体制をもつ自由生活性の動物といえる。その単純な体制から進化学的関心を集め、そのゲノムも2006年に報告されている。しかし、未だに謎も多く残り、その成熟精子や有性生殖過程、個体発生過程などは報告されていない。
そのあまりにも単純な体制のために、分類に用いることが可能な光学顕微鏡で観察できる形質がなく、130年以上に渡って1門1種という、後生動物としては異例な事態が今も続いている。しかし、近年の分子系統学的解析や電子顕微鏡による微細構造の観察によって、門内には複数のグループが存在することが明らかになった。だが、それぞれのグループが別属なのか、別種なのか、亜種なのか、結論は出ていない。
野生からの採集は困難で、1883年の初記載も水族館の水槽から発見された個体であった。また、現在主に研究されているのは1969年に紅海で採取された1匹の個体由来の実験室内系代飼育系統である。近年カリブ海や地中海など温暖な海域での野生集団の調査は進んできているが、実は世界で2例目の野生環境からの採取は日本から報告された。しかし、その後、あまり国内で平板動物の研究はさかんではない。
本セミナーでは、海外の最近の研究成果を紹介するとともに、日本における平板動物研究の現状と今後の展望についてまとめたい。