第1093回生物科学セミナー

モルフォゲン濃度勾配を人工的に操作する試み

Dr. Shinya Matsuda(University of Basel)

2016年03月23日(水)    15:00-16:00  理学部2号館 201号室   

多細胞生物が1個の受精卵から複雑な組織・器官を構築する過程で、モルフォゲン濃度勾配は、組織内で細胞に位置情報を与えると同時に、細胞増殖や形態形成も制御する。刻々と変化する発生の時間軸の中で、組織や器官はどのように適切なサイズと細胞運命を獲得するのだろうか?
ショウジョウバエの翅原基は、モルフォゲンによる細胞増殖とパターン形成のモデル系として中心的な役割を果たしてきた。翅原基の中央部でストライプ状に発現するDppは、拡散して濃度勾配を形成し、細胞増殖を制御するとともに、翅脈を適切な位置に配置すると考えられている。先行研究により、モルフォゲンの濃度勾配がどのように細胞増殖やパターン形成を制御するか様々なモデルが提唱されてきたが、未だ共通見解は得られていない。
我々はモルフォゲンの濃度勾配を特徴づけるパラメータ(分泌、拡散、分解)を人為的に操作することで、モルフォゲンの機能を様々な角度から再検討することを試みている。私は、これまでに内在性のDppに様々なタグを挿入するプラットホームおよび、タグを介してモルフォゲン濃度勾配を制御する「人工受容体」を作成した。現在この系を用いて、モルフォゲンの拡散を様々なタイミングで制御し、変異体解析では難しかった、時間軸に沿ったモルフォゲンの機能を明らかにしたいと考えている。これまでに得られたデータについて議論したい。