第1067回生物科学セミナー

サカナとは“似て非なる”ホヤ幼生の運動機構

西野敦雄 准教授(弘前大学農学生命科学部)

2016年02月16日(火)    16:40-18:10  理学部2号館 講堂   

 ホヤは、脊椎動物の系統に最も近縁な無脊椎動物の系統に属する。ホヤの成体は固着性だが、幼生はオタマジャクシ型の体制をもち、尾を振って海洋中を自由に遊泳する。ホヤのオタマジャクシ幼生の遊泳運動は、両生類の幼生や魚類といった水棲脊椎動物の運動と同様、(1)左右交互に、(2)前方から後方に伝播する、(3)可変的な強度をもった屈曲波を連続的に生み出すことにより達成される。しかし、脊椎動物のオタマジャクシがこの動きを多数の神経細胞と筋肉細胞の関与のもとに生み出すのに対し、ホヤ幼生は約40個の筋肉細胞、100個程度の神経細胞によってこれを行う。
 我々は十年来、この究極的に単純なオタマジャクシがもついかなる仕組みが、脊椎動物の遊泳体と同様の運動を可能にしているのかに注目して研究を行ってきた。その中で我々は、ホヤ幼生の神経筋結合部に存在するアセチルコリン受容体の、脊椎動物のそれとは異なる電気生理学的特性が、ホヤ幼生の滑らかな運動を可能にしていることを示した。本セミナーでは、最近我々が取り組んでいる他の研究トピックも紹介しつつ、ホヤ幼生と脊椎動物が、遊泳体として対照的に進化させた諸特徴を明示したい。