第1044回生物科学セミナー

植物のリン利用応答能、特に樹木の四季変動とリン酸代謝について

三村徹郎教授(神戸大学大学院 理学研究科)

2016年01月08日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

 リンは植物成長における必須元素の一つである。
 一方で、土壌中で植物が利用可能な化学形態を持つリンの濃度はそれほど高くない。そのため農業では、多量のリンを肥料として投入することが重要となっているが、リン肥料の元となるリン鉱石を、経済的に見合う形で採掘を行おうとすると、高々100年以内に地球上から枯渇する可能性が報告されている。しかも日本は、農工業に利用しているリンはほぼ100%輸入に頼っている。
 そのため、植物のリン利用能を明らかにすることで、リンの利用効率をあげる研究が様々に進められている。
 我々も、これまでにシロイヌナズナを初めとする様々な草本植物を用いて、植物のリン利用能に関する研究を進めてきたが、最近、木本植物を用いた研究を始めているので、それをご紹介したい。
 多くの草本植物と同様、木本植物もリンを効率的に利用するための様々な生理機能を維持している。例えば、秋の落葉時に、葉に含まれるリンなどの栄養塩を落葉前に回収することが古くから知られている。また、長寿命を持つ木本植物では、一定年月が経つと、幹の中心に心材と呼ばれる死細胞からなる組織が形成されるが、この細胞死の際にもリンが回収されるとされていた。しかし、回収時のリンの転流機構や冬期の蓄積組織、リンの蓄積形態はほとんど明らかにされていなかった。我々は、野外の落葉木本植物ポプラ(Populus alba)を用いて、リンが落葉時に回収され、冬期に主に有機リン酸として枝などに蓄えられることを明らかにした。これらの野外での結果をもとに実験室内で短期(4−5ヶ月)にポプラの落葉-開芽、リンの回収・貯蔵を再現する系を確立し、この短縮栽培系を利用することで放射性同位体リンを用いたオートラジオグラフィーとリアルタイムイメージングを行ない、葉から回収されるリンの季節的な転流経路の変化や茎組織でのリンの分布を明らかにしてきた。
 さらに、野外、室内での一年に渡る遺伝子発現パターンについても検討を進めているので、併せてご紹介する。

参考文献
[1] 三村徹郎他(2007)リン環境と植物「植物における環境と生物ストレスに対する応答」、蛋白質核酸酵素-別冊 52:625-632、共立出版
[2] Chiou T-J, Lin S-I (2011) Signaling network in sensing phosphate availability in plants. Annu. Rev. Plant Biol. 62: 185-206.
[3] Kurita Y, Baba K, Ohnishi M, Anegawa A, Shichijo C, Kosuge K, Fukaki H, Mimura T (2014) Establishment of a shortened annual cycle system; a tool for the analysis of annual re-translocation of phosphorus in the deciduous woody plant (Populus alba L.). , J Plant Res. 127: 545-551.