第1064回生物科学セミナー

脳臨界期を誘導・再誘導する仕組み

小林洋平(Harvard University, Center for Brain Science)

2015年12月07日(月)    15:00-16:30  理学部2号館 201号室   

子供の脳はなぜ大人の脳と比べて柔軟なのだろうか?その答えは脳
発達の仕組みにあると考えられている。脳の神経回路は、幼年期にお
いて環境や経験に適応するように機能を変化させながら発達する。こ
の脳が柔軟な時期-臨界期-の決定には、神経活動の興奮と抑制の
バランスの最適化が重要であることが知られている。ほ乳類の視覚皮
質においては、GABA作動性の抑制性ニューロンのひとつであるパル
ブアルブミン(PV)陽性細胞が経験に応じて成熟し、興奮と抑制のバラ
ンスを調節することで臨界期を開始させる。興味深いことに、自閉症や
統合失調症といった精神疾患において、PV細胞の変調が認められて
いる。PV細胞の成熟をコントロールする仕組みが明らかになれば、臨
界期の制御機構の理解のみならず、成人においても神経回路の再構
成を誘導することで、精神疾患に対する新しい治療法を開拓できるか
もしれない。本セミナーでは、我々の最近の知見である1)概日時計分
子がPV細胞回路の成熟を調節して臨界期のタイミングを決定すること、
2)特定のマイクロRNA経路がPV細胞によるGABA伝達を調節して臨
界期を開始させること、3)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が大人の
脳に臨界期を再誘導する仕組み、の3点について議論したい。
参考文献
Kobayashi, Y., Ye, Z., and Hensch, TK. (2015) Clock genes control
cortical critical period timing. Neuron 86: 264-275.