第1058回生物科学セミナー

シロイヌナズナのトランスポゾンによる配列特異的アンチサイレンシングとその進化

角谷徹仁教授(理学系研究科生物科学専攻遺伝学研究室)

2015年11月11日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

シロイヌナズナなどの植物では、DNAメチル化のほとんどがトランスポゾンや反復配列に分布しており、これらの配列をエピジェネティックに抑制する目印として働いています(参考文献1)。一方、抑制の目印をトランスポゾンから除く効果のあるタンパク質をコードしているトランスポゾンが見つかりました(参考文献2)。トランスポゾンVANDAL21のコードするタンパク質VANCは、VANDAL21配列およびそれと似たトランスポゾン配列の全長でDNAメチル化喪失と転写脱抑制を引き起こします。しかし、他のVANDALファミリーを含め、配列の違う他のトランスポゾンには影響しません。一方で、VANCと似たタンパク質は他のVANDALファミリートランスポゾンにも見いだされます。他のVANDALのコードするVANC 類似タンパク質を発現させると、それをコードするトランスポゾンおよびそれと似た配列に特異的なDNAメチル化の喪失が観察されました(未発表)。一群のVANC様タンパク質による配列特異的なアンチサイレンシングによって、それをコードするトランスポゾンが効率的に増殖しながら、他のトランスポゾンの増殖による宿主のダメージを避けるという、巧妙な戦略が進化してきたと考えられます。(この短い話題の後に、翌11月12日からの3年生実習の導入をかねて、DNAメチル化制御に関する他の話題も話す予定です。)
参考文献
1. Tsukahara T, Kobayashi A, Kawabe A, Mathieu O, Miura A and Kakutani T (2009) Bursts of retrotransposition reproduced in Arabidopsis. Nature, 461:423-426
2. Fu Y, Kawabe A, Etcheverry M, Ito T, Toyoda A, Fujiyama A, Colot V, Tarutani Y, Kakutani T (2013) Mobilization of a plant transposon by expression of the transposon-encoded anti-silencing factor. EMBO J. 32: 2407-2417