第1041回生物科学セミナー

融合因子IZUMO1の構造変化による新規膜融合モデル

井上 直和(福島県立医科大学 医学部附属生体情報伝達研究所)

2015年12月09日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

受精には生命誕生を実現させる極めて重要な役割があるが、そのクライマックスとなる精子と卵子の膜融合の仕組みは未だ解明されていない。そのようななか、我々は世界に先駆けて膜融合に必要とされる因子IZUMO1を同定し1)、その膜融合に機能するコア領域を見出した。さらに、IZUMO1を発現することで培養細胞を卵子細胞膜に接着させることに成功し、これにはコア領域が必須なことを明らかにした2)。しかし興味深いことに、このアッセイ系では細胞と卵子が膜融合には至らなかった。
本研究では、IZUMO1による配偶子膜融合の制御メカニズムを解明するために、IZUMO1発現細胞-卵子のアッセイ系をモデルに、IZUMO1の継時的、局在特異的な構造変化、特に多量体化に着目した解析を行った。その結果、単量体のIZUMO1は、最近同定されたIZUMO1レセプターJUNO3)を特異的に認識し、その後、速やかに2量体に変換されることが分かった。さらに、2量体化したIZUMO1は、JUNOとの親和性を失い、もはやその接着面にはJUNOが存在しなくなることが明らかになった。この現象は、IZUMO1とJUNOを発現する培養細胞による再構成系や精子-卵子の接着の際にも起こることが確認された。
これらの解析からIZUMO1は、JUNOによる認識後、2量体化を伴う分子構造のダイナミックな変化によりパートナーレセプターを変え、細胞膜同士の距離を物理的に近づけることにより、脂質二重膜の斥力を崩壊させる働きがあると考えられた4)。しかしIZUMO1のみの発現系では膜融合は生じないことから、これには新たな分子メカニズムが存在するものと考えられる。