公開ラボセミナー

生細胞・生体内のエピゲノム修飾と転写のダイナミクス

木村 宏(東京工業大学・生命理工学研究科)

2015年10月07日(水)    16:00-17:00  理学部3号館327号室   

ヒストンの翻訳後修飾は、遺伝子発現制御やゲノム維持に重要な役割を果たしており、発生や分化、細胞周期、外部刺激などに応じてダイナミックに変化する1)。また、ヒストン修飾やDNAメチル化を介したエピゲノム制御の破綻と細胞のがん化との関係も最近注目されており、ヒストン修飾酵素・脱修飾酵素の阻害剤開発などが積極的に進められている。
我々は、発生・分化や刺激に応答したヒストン修飾と転写の動態を明らかにするため、各種ヒストン修飾に特異的なモノクローナル抗体を開発して研究を進めている。これらの抗体は、クロマチン免疫沈降(ChIP)や免疫染色等に使用できるほか、生細胞イメージングにも応用可能である。蛍光標識した抗原結合断片(Fab)を細胞に導入することで、ヒストン修飾の細胞周期やマウス初期胚発生におけるダイナミクスを明らかにすることが出来た2,3)。また最近、この系をRNAポリメラーゼIIの開始型と伸長型に見られるリン酸化に適用し、ステロイドホルモンによる遺伝子の活性化に伴うRNAポリメラーゼIIの動態とヒストン修飾の意義についての解析を行った。その結果、ヒストンH3のK27アセチル化が転写活性化における二つの異なるステップ(転写因子の結合、及び、転写の開始から伸長への移行)を促進することが明らかになった4)。また、他の転写活性化系においても、H3K27アセチル化が転写活性化に重要な役割を果たすことを示唆する結果が得られている。
 一方、ヒストン修飾を生きた個体レベルで観察するための遺伝子コード系の開発にも成功しており5,6)、この系を用いた生体内ヒストン修飾イメージングについても紹介する。


References
1) Kimura H. Histone modification for human epigenome analysis. J Hum Genet 58, 439-445 (2013).
2) Hayashi-Takanaka Y et al. Visualizing histone modifications in living cells: spatiotemporal dynamics of H3 phosphorylation during interphase. J Cell Biol 187, 781-790 (2009).
3) Hayashi-Takanaka Y et al. Tracking epigenetic histone modifications in single cells using Fab-based live endogenous modification labeling. Nucleic Acids Res 39, 6475-6488 (2011).
4) Stasevich T et al. Regulation of RNA polymerase II activation by histone acetylation in single living cells. Nature 516, 272-275 (2014).
5) Sato Y et al. Genetically encoded system to track histone modification in vivo. Sci Rep 3, 2436 (2013).
6) Kimura H et al. Visualizing posttranslational and epigenetic modifications of endogenous proteins in vivo. Histochem Cell Biol 144, 101-109 (2015).