第1053回生物科学セミナー

線虫C. elegansの「意思決定」のための情報処理演算とその分子基盤

木村幸太郎准教授(大阪大学大学院理学研究科)

2015年07月23日(木)    15:00-16:30  理学部2号館 講堂   

動物は、環境からの刺激に基づいて複数の選択肢の中から単一の行動を選択し、これは「意思決定」のシンプルなモデルとして研究されている。しかし、連続的に変化する環境からの刺激情報を単一行動の選択に結びける神経機構の詳細は不明である。我々は、線虫C. elegansの匂い応答における「意思決定」のための情報処理演算とその遺伝子基盤の一部を明らかにした。C. elegansは匂い忌避行動において80%程度の確からしさで忌避方向を選択する。バーチャルな匂い勾配下で自由に行動するC. elegans感覚ニューロンの光生理学的解析を行った結果、匂い濃度変化の時間積分を正確に反映した神経細胞活動が、忌避方向の選択に重要な役割を果たしていた。また、遺伝学的解析から、この匂い情報の演算にGタンパク質シグナル伝達が必要
であることが明らかになった。「刺激情報の時間積分」は霊長類やげっ歯類の意思決定に重要な役割を果たすことが知られているが、今回の我々の発見は、情報の時間積分による意思決定が動物に広く保存された仕組みであり、その分子基盤を解明するためのモデルとしてC. elegansが有効である可能性を示している。