生物科学セミナー 第847 平成201 30日(水)16301800

 

講演題目:植物細胞におけるアクチン細胞骨格の構築機構とミオシンXIの運動機構

 講演者名:富永 基樹 (独立行政法人理化学研究所中央研究所)

 

講演の概要

 

植物細胞内では、原形質流動として知られる活発な細胞小器官や小胞の輸送が行なわれている。原形質流動は、小胞に結合したミオシンと呼ばれるモータータンパク質が、レールとなるアクチンフィラメント上を運動することによって発生している。高度に組織化された原形質流動の仕組みを理解するためには、アクチンフィラメントの配向制御機構や、ミオシンの運動機構の解明が不可欠である。細胞レベル、分子レベルでこれらの機構を解析し、原形質流動というダイナミックかつ繊細な運動を理解しようと試みた。

レールであるアクチンフィラメントの構築機構を解明するために、モデル細胞としてトチカガミ根毛細胞を用い解析を行なった。生理学的手法や形態学的手法(蛍光顕微鏡及び電子顕微鏡)あるいはマイクロインジェクションを用い、アクチンフィラメントの配向制御機構及び束化機構を明らかにした。

植物特異的なミオシンXIについて初めて遺伝子配列、分子形態、酵素活性、運動活性、1分子運動機構の詳細まで明らかにした。光ピンセット法を用いた一分子運動計測技術によって、ミオシンXI単一分子が、ステップ幅35 nmでアクチンフィラメント上をプロセッシブ(連続的)に運動することができる最速のモーターであることを世界で初めて明らかにした。更に、ミオシンXIのカルシウムイオンによる運動阻害機構を1分子レベルで解析した。結果、軽鎖カルモジュリンの解離部位によって、プロセッシビティーが制御されるという新しい細胞内制御機構を提唱した。

 

参考文献

1)       Tominaga, M., Morita, K., Yokota, E., Sonobe, S. and Shimmen, T. (1997) Microtubules regulate the organization of actin filaments at the cortical region in root hair cells of Hydrocharis. Protoplasma 199 : 83-92.

 

2)       Tominaga, M., Yokota, E., Vidali, L. Sonobe, S., Hepler, P. K. and Shimmen, T. (2000) The role of plant villin in the organization of the actin cytoskeleton, cytoplasmic streaming and the architecture of the transvacuolar strand in root hair cells of Hydrocharis. Planta 210 : 836-843.

 

 

3)       Tominaga, M., Kojima, H., Yokota, E., Orii, H., Nakamori, R., Katayama, E., Anson, M., Shimmen, T. and Oiwa K. (2003) Higher plant myosin XI moves processively on actin with 35 nm steps at high velocity. EMBO J. 22 : 1263-1272.

 

4)       Sellers JR, Veigel C. (2005) Walking with myosin V. Curr Opin Cell Biol. 18:68-73.

 

 

5) Shimmen T. (2007) The sliding theory of cytoplasmic streaming: fifty years of progress. J Plant Res. 120:31-43.

 

 

理学部生物学科植物学コース