生物科学セミナー 第845回 平成19年12月19日(水)16:30〜18:00
講演題目:環境情報センシングにおける酵母と植物のCa2+透過チャネルの機能 |
講演者名:飯田 秀利(東京学芸大学教育学部生命科学分野) |
講演の概要 あらゆる生物は環境情報を感知し応答することなしに生きることはできない。環境情報の中には、ホルモンやフェロモンなどの生物の生産する物質や、外界のさまざまな物理的化学的刺激が含まれる。これらの刺激の多くは、生体膜に存在するCa2+透過チャネルを開口させ、細胞質にCa2+シグナルを発生させる。本講演では、出芽酵母のCa2+透過チャネルとシロイヌナズナの新規Ca2+透過チャネル候補に焦点を当てる。 出芽酵母のCa2+透過チャネル系は、主要構成成分として動物の電位作動性Ca2+チャネルのホモログであるCch1、および我々が発見した機械受容チャネル活性をもつMid1から成る(1-3)。このCa2+透過チャネル系は、性フェロモン作用後のCa2+流入と細胞の生存に必須のものとして発見されたが、その後、低温、アルカリ、Fe2+などのストレスや小胞体ストレスによるCa2+流入あるいは耐性にも関与することが明らかにされた。 一方で我々は、シロイヌナズナからMCA1およびMCA2と名付けた機械受容チャネル候補の遺伝子を単離した(4)。この単離は、長年不明であった植物の機械受容チャネルを分子レベルで特定することを目的として、出芽酵母のmid1変異株の致死性を相補できるcDNAをスクリーニングすることにより成功した。これまでの研究から、Mca1は、初生根の接触刺激の感知と機械刺激後のCa2+流入に関与することを明らかにしている。 植物は接触などの機械刺激を敏感に感知できることを、120年も前にチャールズ・ダーウィンが報告している(5)。それ以来、接触ばかりでなく重力に伴う外的機械刺激、細胞分裂や花粉管の伸長に伴う内的機械刺激、および低温刺激などの感知と応答において、Ca2+透過性機械受容チャネルの重要性が指摘されてきたが、その分子的実体は不明であった。今回の我々の発見はこの分野に大きな進歩をもたらすものであり、本講演で我々の研究の現状と展望を解説する。 参考文献 1.
Paidhungat,
M., and Garrett, S. (1997) A homolog of mammalian, voltage-gated calcium
channels mediates yeast pheromone-stimulated Ca2+ uptake and
exacerbates the cdc1(Ts) growth
defect. Mol. Cell. Biol. 17:6339-6347 |
理学部生物学科植物学コース