生物科学セミナー 第843 平成1912 5日(水)16301800

 

講演題目:細菌が持つ膜超分子イオニックモーターの分子構築と機能

 講演者名:本間 道夫(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)

講演の概要

  バクテリアのべん毛モーターは、特定イオン(H+ または Na+)の流れを回転運動に変換する分子機械である。べん毛の根元にはイオンの電気化学ポテンシャル差を駆動力として回転する分子モーターが存在し、その回転力はモーターの固定子と回転子の相互作用を通じて発生すると考えられている。生物界では唯一、イオン流を直接、運動に変換する機能を有する器官である。そのエネルギー変換と回転メカニズムは、大きな謎として取り残されているテーマの一つである。最近、この謎の解明に向けて大きな前進をもたらす、べん毛モーターの回転が小さなステップの連続である事実が突き止められた。本講演では、この成果を得ることに成功した背景を紹介したい。さらに、膜に埋め込まれた超分子複合体であるべん毛の分子構築についての知見を紹介したい。べん毛モーターの構造で最初に単離されたのは、細菌表層膜に埋まったべん毛の根元部分の基部体と呼ばれる構造である。これが回転し、細胞外に長く伸びたスクリューにあたる螺旋状の繊維構造が回転し、推進力を作る。グラム陰性菌の基部体はLPMSリングと、それらをつなぐロッドから成り立っている。エネルギー変換を担う固定子複合体は、基部体の周囲に存在すると考えられている。べん毛の周りに形成される固定子のタンパク質として、ビブリオ菌のNa+駆動型べん毛モーターでは、PomA/PomB複合体、大腸菌のH+駆動型べん毛モーターでは、MotA/MotB複合体が同定されており、それぞれNa+チャネル、H+チャネルとして機能する。PomBおよびMotBC末端領域にはそれぞれ推定ペプチドグリカン結合モチーフがあることから,固定子は膜のペプチドググリに固定されていると考えられている.海洋性細菌であるVibrio alginolyticusは、細胞の極に1本形成されるNa+駆動型の極べん毛をもつ。このべん毛形成において、どのような機構で極という特定の位置にべん毛モーターは構築され、一本という本数はどのように制御されているのであろうか?最新の知見に基づく分子モーターの構築機構を議論したい。

 参考文献

1)曽和義幸、福岡創、本間道夫(2007):バクテリア超分子ナノべん毛モーターの回転測定.   蛋白質核酸酵素 52: 309-316.

 

2)Fukuoka H, Sowa Y, Kojima S, Ishijima A, & Homma M. (2007) Visualization of functional rotor proteins of the bacterial flagellar motor in the cell membrane. J. Mol. Biol. 367:692-701.

 

3)Sowa Y., Rowe, A.D., Leake, M.C., Yakushi, T. Homma, M., Ishijima, A. & Berry, R.M. (2005). Direct observation of steps in rotation of the bacterial flagellar motor . Nature 437, 916-919.

 

 

理学部生物学科植物学コース