生物科学セミナー 第842 平成191128日(水)16301800

 

講演題目:菌に寄生する植物−菌根菌との関係から見た菌寄生植物の進化−

 講演者名:横山  潤(山形大学理学部生物学科)

 

講演の概要

維管束植物は、現存する種類の2/3以上がその根で菌根菌と共生関係を営んでいる。この関係は、植物が光合成で得た炭素源を菌根菌に供給する代わりに、菌根菌が植物の無機養分吸収を補助する役割を果たすというように、多くの場合は相利共生的であると考えられている。しかし時にはこの関係から、植物が菌根菌への依存度を高め、最終的に菌根菌に炭素源を完全に依存するように進化することがある。菌寄生性(myco-heterotrophism) はこのような状態を指し、全ての炭素源を菌類からの供給でまかなう、いわば菌類に寄生する生活様式である。全生活史を通じて完全に菌類に炭素源を依存する種類は菌寄生植物と呼ばれ、被子植物の1087属約400種が知られるのみだが、光合成能力の消失や特異な形態形質の進化など興味深い現象を数多く内包している植物群である。本講演では菌寄生植物が多いイチヤクソウ科やラン科植物での研究例を中心に、菌寄生植物の進化を、特に菌根菌のパートナーチェンジとの関係から考えてみたい。また、菌根菌パートナーを大きく変化させない状態で菌寄生性を進化させている事例として近年注目されている、アーバスキュラー菌根菌に依存する菌寄生植物の研究例にも触れ、イチヤクソウ科やラン科の事例と比較しながら、その進化過程について考えてみたい。

 

 

参考文献

Bidartondo, M. I. & Bruns, T. D. (2001). Molecular Ecology 10: 2285-2295.

Bidartondo, M. I. et al. (2002). Nature 419: 389-392.

Leake, J.R. (1994). New Phytologist 127: 171-216.

McKendrick, S. L. et al. (2000) New Phytologist 145: 539-548.

Yokoyama, J. et al. (2005) Journal of Plant Research 118: 53-56.

 

 

理学部生物学科植物学コース