臨時生物科学セミナー(第157回)

 

  日 時:平成19年10月1日() 160〜1

場 所:理学部2号館 第二講義室(223号室

 

 

講演題目:シロイヌナズナ根毛細胞の先端成長における

RHD2/NADPH oxidaseの局在と活性化システムの解明

 

 

講演者名:武田征士博士

Cell and Developmental Biology, John Innes Centre Norwich NR4 7UH, UK 

 

講演の概要

 

植物細胞は、拡散成長(diffuse growth)または先端成長(tip growth)によって成長し、さまざまな形をとるようになる。先端成長とは細胞表面の一部だけで行われる成長をいい、これによって細胞は一方向に長く成長する。成長ポイントが細胞表面の一部に限られるこの成長様式では、一細胞内での極性の確立が重要であることを示している。この一細胞内でおこる極性確立のメカニズムを理解するため、我々はシロイヌナズナの根毛形成をモデルに研究を行っている。根毛細胞は先端成長によって長いチューブ状の形態をとり、水や無機栄養分の摂取に関わる。シロイヌナズナrhd2突然変異体の根毛細胞では、原基は正常に形成されるものの、その後の伸長が行われない表現型が観察され、根毛細胞の先端成長に異常があることが示唆されていた。RHD2遺伝子は、成長中の根毛細胞の先端での活性酸素種の産生に関わるNADPH oxidaseホモログをコードしている。活性酸素種の蓄積は根毛細胞の先端以外では見られないことから、RHD2による局所的な活性酸素種の産生が根毛細胞の先端成長に重要であることが示唆されていた。
      
この局所的な活性酸素種産生がどのようなメカニズムで行われているのかを調べるため、GFPと融合させたRHD2を発現するシロイヌナズナを作製した。この植物を用いた解析から、(1)RHD2は根の表皮細胞で発現していること、(2)RHD2タンパク質は成長中の根毛細胞の先端に局在すること、(3)このRHD2タンパク質の局在は、ROP GTPaseに依存的であること等の結果を明らかにした。さらに我々は、RHD2の活性酸素種産生におけるリン酸化とカルシウムイオンの役割についても解析した。RHD2N末領域には、リン酸化を受けると予想されるアミノ酸と、カルシウムイオンが結合するEFハンドモチーフに相同性を示すドメインがある。実験データから、我々はリン酸化とカルシウムイオンがRHD2の活性酸素種産生能を相乗的に活性化することを見出した。セミナーでは、極性をもった細胞成長に関わるRHD2の局在と活性化がどのようにして行われているのかについて討論する。

 

 東京大学理学部生物学科植物学コース